過去04
僕にはサヤカという知り合いがいる。彼女とはもう半年近く会っていない。サヤカはごく普通の女の子だけれど、よく見ると普通ではないことが分かる。でもこんな事は誰にでも当てはまることなのかもしれない。
僕らは三年前の夏に知り合った。彼女は僕と同じ学生寮に住んでいて、そこのビリヤード場で出会った。僕が友達といっしょにビリヤードをしている時、何人かの女の子のグループがその部屋にやって来て、僕らは彼女たちにビリヤードのやり方を教えたりしながら仲良くなった。その中の一人にサヤカがいた。彼女は特にビリヤードが上手なわけではなかったけれど、とてもそれに熱中していた。だから僕はその頃、ほとんど毎晩彼女とビリヤードをして遊んでいた。
サヤカは痩せた身体をしていて、目が大きく、髪をいつも後ろで束ねて留めていた。彼女はいつもTシャツとデニムのショートパンツという恰好で、ビリヤードのスティックを左手に添えると、前かがみになってその手をプールテーブルの上に置き、ショートパンツに包まれてキュッとしまったお尻を、まるで発情期の雌猫みたいに突き出して構えた。
僕は時々、彼女のそのパンツに包まれた腰や、むき出しの太ももからつま先にかけてを、舐めまわすように眺めた。彼女の痩せた上半身とは対照的に、むっちりとした太ももは小麦色に日焼けしていて、ふくらはぎから足首にかけては多少筋肉がつき、脚全体のラインは少し内側に曲がっていた。
ある夜、僕とサヤカはいつものようにビリヤードをしていた。
彼女は少し大きめの白いTシャツを着ていたので、前かがみになってボールに狙いを定める時、垂れ下がったそのシャツの襟元から、彼女のカーキー色のブラジャーと平らな腹部が見えた。僕は薄暗いビリヤード場の中で、彼女のすぐそばに立ち、プールテーブルのすぐ上に吊り下げられた弱い電灯の光を頼りにそれを見ていた。
「これじゃ入んないよー」
狙ったボールが穴に落ちそうにないと、彼女はまるでアニメの声優みたいに透き通った、女の子らしい声でよくそう言った。僕はそれを聞くたび、淫らに自分とサヤカの性器が向かい合っているところを想像した。そして「これじゃ入んないよー」というその声を頭の中で繰り返しこだまさせた。
気がつくとサヤカは僕の方を見上げていた。僕は彼女のシャツの中身を見るのに忙しくて、それに気がつかなかった。彼女は僕が何を見ているのかすぐに察したのだと思う。彼女はそのゲームが終わると、突然眠いと言い出して自分の部屋に帰っていった。
僕はそれに対して特に何とも感じなかった。ただ自分のいやらしさが露呈して、女の子は自分から去っていくのだなと思った。そういうことにはもう慣れていた。去りたいのなら去らせれば良いのだと。
その夜、僕はベットに着くと、サヤカの胸や腰や太もものことを思ってマスターベーションした。妄想の中で、僕は後ろから彼女の腰を抱き、思いきり自分のペニスを彼女の膣の中に突き立てていた。射精した後、僕はとても気分が悪くなった。彼女の身体に触れたいと思った自分が信じられなかった。なぜあんな女に?と僕は思った。
次の日の朝、彼女は何事もなかったかのように僕の部屋に来た。彼女はまた同じショートパンツをはいていた。僕らはどうでもいいような話をした。僕はなるべく自分のいやらしさを見せないために、彼女との距離を取り、窓を開けて部屋に風と日の光を入れた。
彼女はしばらく僕のベッドの上に座っていたけれど、僕が何もしないと分かって、そこから立ちあがると、ゆっくりと部屋の出口の方へ歩きながら、自分の壊れた自転車の話を始めた。そして部屋から去る時、真剣な表情で言った。
「私の自転車直して欲しいから、後で道具持って部屋に来て」
僕はその真剣さが何を意味しているのかなんとなく分かっていたけれど、分かっていないふりをしながら、ああいいよ、と応えて彼女を見送った。
僕は何も考えず、その後ドライバーセットを持ってサヤカの部屋に行った。その部屋に入ると中は薄暗く、涼しくて、綺麗に整頓され、青いベッドカバーはしっかりと整えられていた。僕はそのベッドを見てみぬふりをした。そして部屋を見渡し、あたり障りの無い感想を述べた。彼女は洗面所の大きな鏡の前で何かしていた。僕らは目が合った。彼女は真剣な表情で僕を見た。その目は大きく開いていて、僕の気持ちを確認しようとしているみたいだった。
でも僕は彼女と寝る気にはなれなかった。一つには、僕には他に好きな女性がいたことがあるし、昨晩マスターベーションした後の感覚が頭から離れなかったということもある。例え彼女と寝たとしても、その後に残るであろう気持ちが怖かったのだ。
彼女はすぐに僕が乗り気ではないという事が分かったようだった。僕らはしばらく会話した後、部屋を出て自転車を修理しに行った。
それから二年の間、僕らの間には何もなく、お互い顔を合わせることも少なかった。何ヶ月か前に、偶然彼女と何度か話をする機会が合ったけれど、その時彼女にはすでに別の男ができていた。
それでも僕らはいっしょに食事したり、話をしたりしているうちに親密な雰囲気になることがあった。彼女は僕の隣りに座ってきて、誘うような仕草で僕の目の前に、太ももや、小さな胸の膨らみをちらつかせた。僕はただ意識し過ぎていただけなのかもしれない。でも彼女の目は、確かに何かを訴えていたような気がする。もし次に彼女に合う機会があるのなら、僕はそれを確かめてみたい。