過去02

一年くらい前、学校帰りのバスに乗ると、ある女の子をたまに見かけるようになった。

その子は色が白く、少しぽっちゃりした身体をしていて、肩まである茶色い髪には艶があり、まるで赤ちゃんのようにかわいい顔をしていた。彼女はそのベビーフェイスには似合わないほど綺麗で色っぽい手をしていて、爪に青紫のマ二ュキュアを塗っていた。彼女の白いうなじの曲線は、力強くそれでいて成熟した女性の色気があった。

彼女は何度か僕の隣りに座ってきたことがあった。彼女の目や口元を近くで見ると、それはかすかに微笑んでいるように見えて仕方なかった。僕は遠くから、彼女が独りでタバコを吸っていたり、誰かと話しているのをよく眺めていた。彼女は人の話を聞く時はいつも、テーブルの上にひじをついて、あごを自分の手のひらに乗せながらにっこり微笑んでいた。それは本当にかわいらしい仕草だった。彼女の微笑み方は無邪気で、どんな人間でも受け入れているように見えた。

だから僕は、ある晴れた日に彼女が芝生の上に座ってバスを待っている時、思いきって自分から彼女に微笑みかけてみた。彼女はしばらくポカンと口を開けて僕を見ていた。彼女は僕に何か言いたそうな表情をしたけれど、結局何も言わなかった。僕はその数秒間で彼女に対する好意をしっかりと伝えることができたような気がした。その後、僕は彼女を強く意識するようになり、彼女も僕を少し意識しているように見えた。

でもそれ以来、彼女は二度と僕の隣りには座ってこなかった。そして僕が彼女を見ていることに気付き、僕と目を合わせるのを避けるようになった。そして僕は名前も知らない女の子に微笑みかけてしまったことが、すごく気まずく思えるようになり、もう彼女を目で追うことを止めた。

今でも時折、学校で彼女とすれ違うことがある。でもそんな時、僕を見る彼女の目はとても醒めていて、耐えられないほど冷たい。

 

コンテンツへ